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吉野家ホールディングスでは、飲食店の再定義をテーマに、「ひと・健康・テクノロジー」の3つのキーワードを掲げている。お客様に「健康」を提供するため、今後の各事業会社のメニュー開発・素材開発において、「健康的」からエビデンスに裏付けられた「健康」そのものの追求へ取り組みを深化させ、そこに時間と費用を投じていく、と方針を発表している。その第一弾として開発されたのが、機能性表示食品「サラシア入り牛丼の具」(以下、サラ牛)だ。
2017年3月6日、吉野家では外食チェーンとして初めて機能性表示食品を吉野家公式通販ショップで販売を開始。同年7月3日からは、同等量のサラシアを入れた牛丼の販売を店舗でスタートさせた。
この開発に携わったグループ商品本部素材開発部の梶原伸子は、健康食品業界に長年身を置き、2015年9月に吉野家に入社した。「サプリメントの黎明期からこの業界に携わりましたが、不足している栄養はサプリメントで補う文化が定着しつつあるアメリカに比べて、日本ではベーシックなサプリメントが定着しにくいと思いました。今の市場で伸びているのは特定の機能にフォーカスした複合的なもので、ほとんどの日本人が明らかに不足しているビタミンやカルシウムのような基本栄養素のサプリメントの市場は伸びていません。それは、栄養摂取をサプリメントに頼らずに食事で改善したいという日本人の姿勢の表れでもあります。食べることで健康を目指す吉野家に共感し、働く人を健康にしたいという自身の思いからも、これに取り組む決意をしました」。
左 : 2016年3月 “新ベジ丼” 販売 / 中央 : 2016年6月 “麦とろ牛皿御膳” 販売 / 右 : 2017年1月 “とん汁” 販売
吉野家ではこれまでにも健康を意識した商品を提供し、近年では1日に必要とする野菜量の半分を使った「ベジ丼」「新ベジ丼」を発売。「新ベジ丼」では、動脈硬化予防、血圧降下などの作用が期待されるケルセチンを配合したオニオンソースを使用した。「漠然と健康をうたえても、法律などの問題もあり、それ以上のことは伝えられませんでした。これに対して『サラ牛』は、科学的根拠を元に健康を前面に出せた商品なのです」。健康に対してどんな作用があり、効果があるのか。明確に伝えるためには機能性表示食品が必要であり、本当の意味での健康への取り組みの第一歩として「サラ牛」が開発されたのであった。
サラシア由来サラシノールは、食事から摂取した糖の吸収を穏やかにし、食後の血糖値の上昇を緩やかにする機能が報告された素材。このサラシノールを配合し食後高血糖に留意した商品を開発したのは、がん、循環器疾患、糖尿病などの生活習慣病が死亡者数の約6割を占める、日本の深刻な状況と関係している。
「すべては内臓脂肪の蓄積から始まり、食後高血糖、高脂血症、高血圧が引き起こされると考えられます。さらに、他の民族に比べて糖尿病になりやすい遺伝子を持つ日本人には、隠れ糖尿病とも呼ばれる食後高血糖の人たちも多い。そこで、丼ものとして白米を提供する吉野家としては、食後高血糖を気にして牛丼から遠ざかっているお客様にも安心して召し上がっていただきたいという思いで、『サラ牛』の開発に着手しました」と梶原は話す。
食後の血糖値上昇を緩やかにする牛丼を開発する。このミッションの下、当初は別の機能性素材で開発を進めていたが、有効な結果を得ることはできなかった。というのは、その素材の効き目が弱く、また牛肉に含まれるたんぱく質や脂質にもインスリンを分泌させて血糖値を下げる作用があるため、その素材を入れた牛丼と入れない牛丼を比較したところで、血糖値の上昇に大きな差が生まれなかったのだ。
開発はゼロからやり直し……と思われたが、比較検証していたサラシアに着目。これを入れて実験を行ったところ、結果に差が出た。「2016年3月にはサラシア由来の成分入りの商品として届出を消費者庁に行いました。最初の素材は食品業界での使用実績が圧倒的に多かったので、牛丼では効き目がないと分かって愕然としたと聞いていますが、比較検証をしていたことが幸いしました」。
開発を担当したのは、梶原を含めたった2人の社員。しかし、原料メーカーにサラシア成分の活性(強さ)の計測を依頼したり、製造工場に何度も試作してもらったりなど、多くの人々の協力なくして開発はできなかったと梶原は振り返る。「試薬を売ってくれる会社を探すにもお付き合いがなかったので取引を断られ、原料メーカーに代わりに購入してもらったこともありました。まずは、機能性表示食品を開発するための環境を整えることが必要でした」。
他には、こんな経験も。牛丼1食につきサラシア由来成分サラシノール0.3ミリグラムが含まれているが、それまでの商品開発では、グラム単位の家庭用のスケールを使っていたため、ミリグラム単位で計測できるものもなく、梶原が入社してすぐに精密天秤を購入したこともあった。吉野家にとっても新しいことの連続。環境を整え、チームを結束することから、始めなければならなかった。
「牛丼は体によくないというイメージや思い込みが根強く、それを払拭する別のハードルが待ち受けていました」と梶原。「サラ牛」を機能性表示食品として届出をする際、消費者庁から牛丼を毎日食べても栄養素の過剰摂取にならない科学的考察を求められたのだった。「牛丼を毎日12週間食べ続ける実験でも、健康への変化はありませんでしたし、牛丼の栄養価をみても、炭水化物、タンパク質、脂肪ともに1日の必要量の3分の1量以内なので、続けて食べても過剰摂取にはなりません。他の2食を含めて牛丼を食べたときの食生活の事例も提出し、“牛丼は不健康な食品ではない”と示しました。それは、サプリメントではない食品が機能性表示食品を取得するうえでのハードルの一つと感じました」。
機能性表示食品の牛丼だからといって、毎食牛丼にすることを推奨しているのではない。そのような姿勢が見過ごされ、牛丼=不健康というイメージが独り歩きしないためにも、「サラ牛」のような科学的根拠に基づいた商品が消費者に正しい情報を伝えていくよう期待を込めているのだった。
梶原は協力工場に出張している際、宿泊先のホテルで消費者庁から届出受理の知らせを受けたという。「早速工場に向かいお伝えしたら、大変喜んで頂けて。開発までの苦労が報われました」。
しかし、困難は最後まで続いた。それは、初回生産に梶原が立ち会った時、溶かしたサラシアが泡立ってしまったのだ。「大量生産となると予想外のことが発生しました。泡立った部分を取り除いてしまったらロスが発生し、機能性が保証できなくなるかもと心配しましたが、工場のみなさんと協力して事態を乗り越えました」。なんとか生産販売にたどり着くことができた。
実は、サラシアの味は甘苦いが、「サラ牛」を食べてもこれまでの牛丼と変わりはない。「吉野家のたれの味は、改めて懐が深
いと思いました。いろいろなものとなじむ味なんです。味覚センサーでテストをしたら、コクやあと味の数値が上がり、味に奥行きも感じられます」と梶原。
このように、おいしさが変わらずに、食後の血糖値上昇を緩やかにする「サラ牛」は、無理なく続けられる身近な健康食品である。「『サラ牛』を通じて、健康管理に使える商品であることや、食後高血糖に注意することの重要性を伝えていければ。今後も、別の切り口で生活習慣病予防につながる商品を開発していきたいです」。食べて健康を守る未来は、すぐ近くにある。